【記事丸わかり】
⇒⇒【弁護士】交通事故で車に被害が!注意点は?(物損①修理費・時価額・代車費用編) |
たとえば物損事故の被害者となり車が大破したケース。
修理費を見積もってもらうと80万円となったけれど、相手保険会社は時価額を50万円と算定し、結局保険からは50万円しか支払われないケース。
このように時価額を超える修理費が発生した場合の保険会社との交渉術・対策法について詳しく解説しています。
しばらくお付き合いいただけると幸いです。
時価額を超える修理費:事故で「全損」になると発生する問題
物損事故は大きく分けると「分損」と「全損」の事故に分類されます。
「分損」とは、たとえば100万円の時価評価額の車に50万円の損害が発生するようなケースです。
こうした「分損」のケースでは、修理費は保険金でカバーできるので特に問題は発生しません。
ところが「全損」となると話は別です。
典型的なケースとしてもらい事故(被害事故)の被害者になったケースです。
もらい事故(被害事故)とは100%相手側に過失が生じる事故形態のことです。
- 信号待ちで停止中に後ろから追突された
- センターラインをオーバーしてきた相手車両と正面衝突した
といった事故です。
こうした事故で車が大破し、保険会社から「全損」と算定されたケースを考えてみます。
加害者側の保険会社は、大破した車の時価額は50万円なので対物賠償保険から50万円を支払います、と通知してきました。
そこで被害者が相手保険会社に尋ねました。
「対物賠償保険はいくらで加入しているのですか?」
「無制限です」
「それなら修理費の80万円を支払ってもらえるんじゃないんですか?」
「いいえ、そうはなりません。あなたの車の現時点での時価額は50万円なので、50万円が支払いの上限になります」
「じゃあ、時価額を超えた修理費30万円は誰が支払うんですか?」
「申し訳ありませんが、あなたが自腹で支払うしかありません」
「じゃあ、修理を諦めて、同程度の中古車に乗り替えることにしてもいいんですか?」
「もちろん、それはあなたの自由です」
「その場合はいくら支払ってくれるんですか?」
「50万円です」
「しかし、同程度の中古車を買う場合、50万円では車両本体代にしかなりません。乗り出すまでには取得税とか整備費用とかの諸費用が発生します。こうした諸費用は支払ってもらえないんですか?」
「申し訳ありませんが、それもあなたが自腹で支払ってください」
さて、これはもらい事故(被害事故)で車が「全損」と認定された場合に発生する典型的なケースです。
被害にあった側はどう交渉すればいいのでしょう?
対策はあるのでしょうか?
- 物理的全損:事故や災害で修理不可能なほど車の損害が大きい場合、あるいは車が盗難にあい結局見つからない場合
- 経済的全損:修理費が車の時価額を上回っている場合
時価額を超える修理費:対策(1)対物超過修理費用補償特約
0:100のもらい事故(被害事故)で相手側に100%の過失が生じるケース。
こうした事故の被害者になり「全損」と算定された場合ですが、すべての保険会社の通常の事故処理では時価額を上限に保険金を支払うのが普通です。
修理費が時価額を超えていても、その超えた部分まで支払うことはありません。
ただし、相手の保険に「対物超過修理費用補償特約」がセットされている場合は、時価額を超えた部分の修理費まで支払ってもらえます。
これは対策というより、ただ単にこの特約が付いているかいないかの問題ですが、とにかくこの特約が付いていれば時価額を超えた修理代まで支払ってもらえます。
時価額を超える修理費:対策(2)時価額の上乗せ交渉
相手保険会社が算定した時価額というのは、通常、レッドブックとかイエローブックと呼ばれる車の取引価格等を記載したデータブックを根拠にしています。
これらデータブックは過去の判例でも有効な根拠として認められるケースが多く、たとえ裁判に持ち込んでも上乗せを勝ち取ることは厳しく、たとえ上乗せが得られたとしても金額は僅かなものになる可能性が高いと思います。
いっぽう、年式が古くてそうしたデータブックに記載がない車の場合、保険会社は、わたしたちが中古車を買う時に利用するグーネットやカーセンサーなどの中古車検索サイトで事故車両と同程度の車の取引価格を調べ、それを元に時価額を算定するのが通例です。
その際、事故車両と同程度の車が複数あった場合、保険会社はその中の金額が低い方を時価額の根拠とする傾向があります。※立場上当然ですが
そこで、被害にあった側としては、やはりグーネットやカーセンサーで同程度の車を検索し、複数台あった場合はその中の金額の高い方の事例を複数プリントアウトし(4台から5台分あるといいです)、保険会社に提出してください。
具体的な根拠を示した上で価格交渉すれば、相手は金額を上乗せしてくる可能性が高くなります。
ただ単にもう少し何とかして欲しいというだけでは、いい結果は期待できないと思います。
また、事故時に車検の残存期間が多く残っている場合、それも価格上乗せのための有効な材料になります。
時価額を超える修理費:対策(3)買替諸費用の請求
対策(1)と(2)は実際に車を修理する場合の話ですが、修理を諦めて車を乗り換えるという選択もあると思います。
その場合、自動車取得税、廃車費用、整備費用などの買替諸費用を請求すべきです。
過去の事例では、つぎの費用を認定している判例が複数あります。
- 廃車費用
- 検査登録費用
- 車庫証明取得費用
- 自動車取得税
- 車両整備費用
もっとも、保険会社により認める項目が異なることがあるので、これらの項目がすべて認定されるという保証はなく、反対にこれ以外の費用が認められるケースもあります。
いずれにしても、ただ単に買替諸費用を支払って欲しいと要求するだけではダメです。
ここでも根拠となるものを相手保険会社に提出する必要があります。
それは買い替えることになる車の見積書です。
車両本体代金から始まり、取得税、整備費用、検査登録費用等様々な諸費用の明細が記載されている見積書を保険会社に提出してください。
時価額を超える修理費:対策(4)自分の車両保険を使う
自分の車両保険を使うという手段も残っています。
もらい事故(被害事故)は相手が100%悪い事故なので、本来なら相手側からの支払いのみで事故を解決したいところです。
しかし、上記の対策がことごとく不調に終わることもありえます。
そんな場合、自分が加入している車両保険を使うという方法も残されています。
もらい事故(被害事故)は車同士の事故なので、一般条件でもエコノミーでも支払対象になります。
そして、通常は車両保険を使えば翌年度の等級は3等級ダウンし事故有期間3年が付くところですが、もらい事故(被害事故)のように被害を受けた側に過失がない場合には、車両保険を使っても翌年度の等級に影響をあたえない特約があります。
「車両無過失事故に関する特約」です。
これはすべての保険会社が採用している特約ではありませんが、下記のように多くの保険会社の車両保険に自動セットされています。
保険会社 | 特約の名称 | 特約の有無 |
東京海上日動 | 車両無過失事故に関する特約 | 自動セット |
損保ジャパン日本興亜 | 無過失事故の特則 | 自動セット |
三井住友海上 | 車両保険無過失事故特約 | 自動セット |
あいおいニッセイ同和損保 | 車両保険無過失事故特約 | 自動セット |
ソニー損保 | なし | なし |
おとなの自動車保険(セゾン) | 車両無過失事故に関する特約 | 自動セット |
アクサダイレクト | なし | なし |
チューリッヒ | なし | なし |
三井ダイレクト | なし | なし |
イーデザイン損保 | 車両無過失事故の特則 | 自動セット |
セコム | 車両無過失事故に関する特約 | 自動セット |
そんぽ24 | 無過失車対車事故の特則 | 自動セット |
SBI | なし | なし |
JA共済(農協) | 車両条項における無過失ノーカウント保障 | 自動セット |
全労済 | 車両損害の無過失事故に関する特約 | 任意セット |
(2019年1月現在)
この特約が付いていれば安心して自分の車両保険を使って事故処理ができます。
時価額を超える修理費:対策(5)弁護士特約
ここまで、もらい事故(被害事故)で時価額を超える修理代が発生した場合の対策について考えてきました。
また、すべて被害にあった人が自分で事故処理を行うという前提でお話してきました。
というのは、もらい事故(被害事故)という事故形態は相手側に100%の過失が生じる事故で、こうした事故形態の場合は自分が加入している保険会社あるいは代理店は加害者側との示談交渉権を持たないのです。
そのことは弁護士法に規定されている事柄です(弁護士法 第72条 非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)。
自分が加入している保険会社や代理店はアドバイスをしたり相談に乗ったりはしてくれるでしょうが、交渉はできません。
ただし、弁護士特約に入っていれば話は別です。
自動車保険の特約である弁護士特約は、まさにもらい事故(被害事故)のケースで活躍する特約です。
弁護士特約に入っていれば、ここまでこのページでご案内してきた様々な対策をすべて弁護士に丸投げできます。
弁護士が経験と実績に基づき動いてくれます。
今回の事故に間に合わなかった方は、将来に備えて弁護士特約にご加入ください。
追加保険料は5,000円以内です。
ご覧いただきありがとうございました。