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【プチ調査】コーヒーなどカフェイン飲料の利尿作用はひどい?
例年のことですが、夏本番が近づくとテレビニュースなどでアナウンサーが次のように呼びかけます。
「熱中症を予防するため、水分をこまめにとるようにしてください。その際、お茶より水を飲むようにしてください。お茶は利尿作用が強くて逆に脱水症状を起こす恐れがあります。水分は水で補給するようにしてください。」
といった内容です。
アナウンサーのこうした呼びかけは、言葉を変えると、
「カフェインを含む飲み物で水分補給はしないように。なぜならカフェインには利尿作用があって、補給した水分以上の水分を身体から放出してしまう作用、すなわち脱水症状が起きる。だから、水分補給は利尿作用をもたらすカフェイン飲料以外の飲みものにするように。」
といった内容になると思います。
本当にお茶やコーヒーなどカフェインを含む飲み物は利尿作用がひどいのか、だから夏の水分補給には適さず、夜行バスや長距離バスに乗るときは飲むべきでなくて、夜寝る前に飲むと夜中に頻尿に悩まされる、だからこうした利尿作用のひどい飲みものには注意しなければいけない、そう一般に言われているのは科学的に正しいのか?
こうした疑問を私がプチ調査した結果がこのページです。
カフェインと利尿作用
緑茶、コーヒー、紅茶、エナジードリンクなどにはカフェインが含まれています。
カフェインを含む飲料に利尿作用があるのは確かです。
カフェインが体内に入ると、血管を拡張させ、血液量を増加させ、それに伴って尿の生成量が増えるので、結果的に「おしっこが近くなる」現象が起きます。
ただし、ここではその程度を問題にする必要があります。
たとえば、同じく利尿作用があるアルコール飲料のうち、ビールを例に挙げると、ビールを100ml飲むと110mlの尿が排出されると言われています。
つまり、単純化して言うと、利尿作用は1.1倍です。
しかし、カフェインを含む飲料である緑茶、コーヒー、紅茶などにはここまでひどい利尿作用はないようです。
カフェイン飲料と脱水症状との関連を調べた研究は、これほど頻繁に話題になるわりにはほんのわずかな研究しかなされていませんが、イギリスに小規模な研究結果があります。
コーヒーを飲む習慣のある健康な成人男性50名を対象に行われた研究では、1日あたり3~6杯(カフェインの量にして300mg~600mg)を飲んでも脱水の可能性はないとのこと。(久保田クリニック:データの出典が明記されていませんが・・・)
ただ、この程度のサンプル数で「研究」と呼べるのかとも思うのですが、それでも1日3杯~6杯ほどのコーヒーを飲む人は私を含めてたくさんいて、私自身の実感と照らし合わせても、この小規模な研究結果は受け入れることができるものだと思います。
私などはコメリで買った超特大のマグカップで連日3杯~4杯は飲み続けていますが、脱水症状になったことはまだありません。また、「おしっこが近くなる」のは事実ですが、しかしクリンスイなどの浄水器やバナジウム水などに入れ込んでいた時期にも、大量にそうした水を飲み大量におしっこを排泄していたので、コーヒーなどのカフェイン飲料ゆえに際立ってひどい利尿作用にみまわれたという印象はありません。
多量の水分を摂取すれば多量のおしっこが出る、というごく当たり前の認識でした。夏場など水を飲めばすぐにトイレに行っていたこともあり、そんな時は、こんなことならトイレで用を足しつつ水を飲めば楽でいいなあ、などと馬鹿なことを考えたこともあります。
与太話はともかく、いまだ決定打となるような研究結果はなく、複数の研究者によるサンプル数の少ない印象論のようなものになってしまいますが、日本人が通常飲んでいるコーヒーの量ではひどい脱水症状が起きる可能性はまずない、ということが専門家の間で最近になってよく言われていることです。
さらに、カフェインを定期的に摂取している人の体は、カフェインに対する耐性を獲得するので、もともとそれほど強くはないカフェインの利尿作用も、さらに低減されるということも併せて言われるようになっています。
となると、毎年夏場になって熱中症の危険が話題に上るようになると、テレビのアナウンサーが必ず「お茶ではなく水で水分補給するように」と訴えるあのフレーズは、ちょっと差し引いて受け止める必要があるのではないでしょうか。
もちろん、お茶をはじめとしたカフェイン飲料のほうがただの水より利尿作用が大きいのは事実でしょう。ただ、それが「お茶やコーヒーを飲むとひどいことになる。すぐに脱水症状が出る」というほどの違いであるかはやや疑問です。
ただの水だってたくさん飲めばトイレが近くなります。
どうせ注意喚起するなら、「水分は一度に大量摂取しないで、少量ずつこまめに摂取するように」という点のみを強調するほうが熱中症予防には実効性が高いのではないか、どうなのか・・・。
このページのテーマは「コーヒーなどカフェイン飲料の利尿作用はひどい?」というものですが、少なくともカフェイン飲料にはビールを飲み過ぎた時のような「ひどい」利尿作用はないと思います。
カフェインに利尿作用があることは間違いないところですが、お茶やコーヒーなどのカフェイン飲料とただの水を比較した場合に、カフェイン飲料を飲んだ場合の方が統計上有意な数値として「ひどい」利尿作用があるかないか、この点をはっきりして欲しいところですが、あまりはっきりした研究成果はまだないようです。
最近は流行りませんが以前よくやっていたテレビの時代劇では、豪商の店先に金を目当てに暴れん坊が現れると、番頭が店の奥で爪楊枝をくわえている用心棒に、先生お願いします、と暴れん坊退治を要請する場面がよくありました。
わたしも関係する研究者の皆さんに、
「先生、ビシッとした研究成果をお願いします」
と要請したいところです。
カフェイン飲料に含まれるカフェインの量
ここまで「コーヒーなどカフェイン飲料の利尿作用はひどい?」というテーマに沿って一通り見てきました。
頭の中にモヤッとした部分がまだ残りますが、「ひどい」というほどの利尿作用はなさそうです。
ただし、繰り返しになりますが、カフェインそのものに利尿作用があることは間違いないので、過剰摂取による危険ということもありますから、ここでは代表的なカフェイン飲料のカフェイン含有量について見ていきたいと思います。
なお、その前に確認しておきますが、カフェインの1日の許容摂取量について、日本では明確な基準は策定されていません。
いっぽうで、EUの欧州食品安全機関(EFSA)では、成人の場合1日400mg以内なら安全性の問題はない、と発表しています。また、妊婦の場合は1日200mg以内であれば胎児に安全性の懸念は生じない、としています。(⇒⇒欧州食品安全機関(EFSA))
また、カナダ保健省の基準は、成人が400mg以内、妊婦が300mg以内、体重40kgの子供なら100mg以内としています。
日本の識者のなかには、上記欧米の基準に対して、体格的・体力的に小さい日本人の場合は、成人300mg、妊婦200mgくらいを上限にすべきだという見解があります。(参考:食品安全委員会)
以下、カフェインを含む飲料のカフェイン含有量についてです。より実際の飲み方に近い抽出方法で試験したため、やや比較しづらい点はご了承ください。
(コーヒー)
- 缶コーヒー1缶:90mg~160mg
- ドリップコーヒー:60mg/100ml(コーヒー豆10gをお湯150mlで抽出)
- インスタントコーヒー:60mg(粉末2gを熱湯140mlに溶かす)
※缶コーヒーは銘柄によって幅がありますが、カフェインの含有量は平均的に多いです。
(緑茶)
- 玉露:160mg/60mL(茶10gを60℃のお湯60mLで抽出)
- 抹茶:48mg(1.5g使用した場合)
- 煎茶:20mg/100mL(茶10gを90℃のお湯430mLで抽出)
- ほうじ茶:20mg/100mL(茶15gを90℃のお湯650mLで抽出)
- 玄米茶:10mg/100mL(茶15gを90℃のお湯650mLで抽出)
※玉露が突出してカフェイン含有量が高いです。ただ玉露は値段も突出して高いので、気軽に飲む人も少なく、あまり大きな問題ではないでしょう。
(紅茶)
- 紅茶:30mg/100mL(茶5gを熱湯360mLで抽出)
※紅茶は緑茶と原料は同じですから、ほぼ予想通りのカフェイン量です。
(エナジードリンク)
- エナジードリンク:32~300mg/100mL
※コンビニや自動販売機でおなじみのエナジードリンクは製品によりカフェイン含有量の幅が大きいのが特徴です。含有量の多いドリンクは1本でほぼ基準値を満たします。
(コーラ)
- コーラ:20mg/100ml(コーラ1缶350mlの場合は70mg)
※コーラは100mlあたりのカフェイン量は比較的少量ですが、夏場などペットボトルのコーラをがぶ飲みする人がけっこういます。こうなるとカフェイン量はかなり高くなるので要注意です。
(ココア)
- ココア:15mg(ココア粉末7g)
※意外とカフェイン量が少ないのがココアです。
(参考:日本食品標準成分表2020年版(八訂):文部科学省 (mext.go.jp))
(参考:食品安全委員会)
※※※カフェインは上記飲料以外にも、チョコレート、眠気覚まし用の清涼飲料水、ガム、サプリメントなどいろんな製品に添加されています。知らず知らずのうちに推奨基準を超えてしまう恐れがあるので、特に妊娠中の女性や授乳中の女性はカフェインを含む飲み物は控えめにしてください。
カフェインを過剰摂取するとどうなる?
カフェインを過剰に摂取した場合、様々なひどい症状に見舞われることは珍しくありません。「中枢神経系の刺激によるめまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠症、下痢、吐き気等の健康被害をもたらすことがあります」。(厚生労働省)
また、「妊婦が高濃度のカフェインを摂取した場合に、胎児の発育を阻害(低体重)する可能性」が報告されています。(農林水産省)
最もひどい症状が出るのは、空腹時にカフェインを摂り過ぎた場合です。空腹時にカフェインを多く含む飲料を多量に飲んだりしないよう注意すべきです(特に夏場)。
カフェインがもたらす体への作用
カフェインが体内に入った場合の作用は大きく3つに分けられます。
- 脳への作用:脳を興奮させ、眠気を覚まし、疲労感を除去する
- 血管への作用:筋肉の血管をはじめ体中の血管を拡張させる
- 腎臓への作用:腎臓の血管を拡張させ、血流を増やし、同時にナトリウム等の再吸収を抑える作用。これにより利尿作用が起こる
上記以外に最近注目されているのが病気の予防効果です。
カフェインの適切な摂取は、糖尿病やアルツハイマー型の認知症予防に効果が期待されると言われています。さらに、体の各部分に障害が現れるパーキンソン病の予防効果にも高い期待が寄せられています。
カフェインの持続時間
体内に摂取されたカフェインは、まず小腸で吸収され、そこから血流にのって全身に行きわたり、約30分かけて脳まで到達して、興奮、覚醒などの作用が現れてきます。
その後、カフェインの効果は2時間~4時間ほど継続します。
カフェインの効果・作用が最大値となるのは摂取後3時間経過した頃と言われています。
やがて、摂取後5時間~7時間で効果がほぼゼロになるようです。
「利尿作用」のメリット・デメリット
利尿作用をもたらすのはカフェイン飲料だけではありません。
アルコール飲料、カリウムを多く含むトマトジュースや赤ワインや豆乳、体を冷やす冷たい飲み物なども同様に利尿作用があります。
メリット
利尿作用のメリットとして考えられるのは、身体の中の老廃物が尿に混じって体外へ排泄され、それが美容や健康にプラスの働きをすることです。また、体の水分循環が活発になることでむくみが解消されることが期待できます。
さらに、高血圧の改善も期待できます。
実際に医療現場では、むくみ改善や血圧を下げるのにカフェインが利用されています。
デメリット
一方で、利尿作用のデメリットとして考えられるのは、尿意が高まりトイレの回数が増え、その際に尿の中に体に必要な成分も溶けだして一緒に排泄されてしまうことです。
利尿作用が特に強い飲み物(ビールなど)を多量に摂取すると、体内に取り込んだ水分より、利尿作用で体外に排出される水分の方が多くなり、結果として脱水症状になることがあり、熱中症、下痢や嘔吐などの症状を招き、症状がひどい場合は死ぬこともあります。
ただし、このページのテーマは「コーヒーなどカフェイン飲料の利尿作用はひどい?」というものなので、このテーマの関連で言うなら、たとえば、コーヒーなどを1日に3杯とか4杯飲んだくらいでひどい脱水症状になることはまずなくて、ひどい脱水症状が起こるとすればビールなどのアルコール飲料を飲み過ぎたケースです。
今までは、しばしば「お茶を飲んでも水分補給にはならない」と言われてきましたが、近年では、お茶などに含まれるカフェインによる脱水症状は否定されつつあります。
「大量に摂取しなければひどい影響はない」という説の方が有力になっていて、お茶やコーヒーで水分補給することがダメというわけでは必ずしもありません。(カフェインがもたらす利尿作用のメカニズムを医師に聞いた)
高速バス・夜行バスのトイレ問題
高速の長距離バスや夜行バスに乗る際、通常は2~3時間おきにトイレ休憩がありますし、トイレがついている車両もあるので、尿意が催すことへの心配はあまりないと思います。
ただ、飲みものを大量に飲むと、それがカフェインを含む飲料であっても、カフェインを含まないミネラルウォーターであっても、尿意は正直に襲ってきます。
たとえトイレ休憩があっても、車両にトイレがついていても、何度も用を足すのは煩わしいはずです。
ここでも重要なのは、何を飲むかではなく、どう飲むかでしょう。
がぶ飲みしないで、少量ずつ、まるで口から点滴液を注ぐような(表現がちょっとマニアックですが)感じで水分補給をすれば、ひどい利尿作用で悩まされることはまずないと思います。
まして、脱水症状など心配無用でしょう。
ただし、カフェインを多量に含むエナジードリンクなどは、量は少しであっても、利尿作用が発動しやすいと思うので、避けたほうがいいと思います。
それでも利尿作用や脱水症状が気になるという方は、カフェインを含まないかほとんど含まない飲みもの、たとえば水、麦茶、ハーブティー、ルイボスティーなどで水分補給すると精神的にも安心感が高いと思います。
また、カフェインレスコーヒーなどもおすすめです。
※「カフェインレスコーヒー」と呼ばれるのはカフェインを90%以上取り除いたコーヒーです。「カフェインフリー」や「ノンカフェイン」という表示があれば、カフェインが一切含まれていない飲み物のことです。
まとめ
- コーヒーなどのカフェイン飲料の利尿作用は「ひどい」と呼ぶほどのものではない。
- カフェイン飲料に利尿作用があることは事実だが、たとえばコーヒーを1日3杯から4杯飲んだくらいでは脱水症状を起こすほどの利尿作用は起こらない、というのが近年の専門家の共通の見解になっている。
- にもかかわらず夏場になるとテレビのアナウンサーが「お茶より水で水分補給するように」と訴えるのは、少なくともカフェイン飲料を製造販売しているメーカー関係者には「ひどい」光景と映るだろう。
- 注意喚起は「水分補給はこまめに少量ずつ」を強調するほうが実効性が高いのではないか(これは私見)。
- 本当に利尿作用がひどくて脱水の危険があるのは、ビールを筆頭にしたアルコール飲料を飲み過ぎた場合である。
- 「お茶やコーヒーはトイレが近くなる」と吹聴している人は、同じ分量のミネラルウォーターを飲んだ時にトイレが近いか遠いか、自ら人体実験を実施して欲しい。
ご覧いただきありがとうございました。