自動車業界でソフト人材獲得競争が激化している!

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自動車業界、ソフト人材の獲得競争が進行中

2023年5月30日、日本経済新聞に「ホンダ、ソフト人材1万人に倍増 トヨタは9000人再教育」の記事が掲載されました。

記事の要旨は、以下の通り。

  1. ホンダは2030年までにソフトウェア人材を現在の倍の1万人に増やす計画を発表した。このために、インドのIT企業との提携を強化する予定。
  2. トヨタ自動車は2025年までに約9000人の社員を再教育し、ソフトウェア開発のスキルを持たせる予定である。
  3. ホンダは現在、社内外で約5000人が車載ソフトの開発に携わっており、その中でもインドの開発会社、KPITテクノロジーズと提携を強化し、2030年までにホンダ向けの開発人材を現在の1100人から2000人に増やす計画。
  4. インドのITエンジニアの数は世界で3位の226万人と多く、日本の132万人を上回る。インドは工科大学が多いことと、初等教育でプログラミングを採用していることがその理由とされる。
  5. ホンダは自社の人材も増やし、青山真二副社長は「ホンダの専属チームのようなものをつくりながら開発を進める」と述べた。
  6. ホンダは2025年に独自開発したソフトを初めて搭載した電気自動車を北米で販売する予定で、基幹機能のソフト設計は自社で行い、プログラミング作業や実効性の検証などは提携企業と協力する計画。
  7. トヨタは既存の新車製造や販売部門の社員を電動化や自動運転の新領域に転換させる予定で、グループ全体で今後1万8000人規模の開発体制を整える。
  8. 外部からの中途採用に占めるソフト開発人材の割合はトヨタでは50%に拡大している。
  9. ボストン・コンサルティング・グループによれば、車載ソフトが生み出す利益は2021年の100億ドル(約1兆4000億円)から、2035年には260億ドルに増加すると予測されている。

 

日経新聞によると、他の自動車関連会社も人材育成に力を入れています。

日本経済新聞

 

では、なぜ自動車業界はソフト人材の育成に力を入れているのでしょう?

EV化とはソフトウェア化でもある

今後、全ての乗用車がEV車になるとは限りません。ですが、少なくとも乗用車の50%前後がEVになる可能性は非常に高いと思います。

なぜ「少なくとも50%前後」かと言うと、自動車メーカーやその関連会社がここ1,2年の間にEV車組み立て工場や車載バッテリー工場等に投資している額を見ると、少なくとも乗用車の50%前後までEV車が普及しないと、投資した額を回収できない、そういう様相を呈しているからです。

さて、その際エンジン車がEV車になるということは、単にパワートレーンがエンジンから電動モーターに変わるというのではなく、車載ソフトが従来とは質的に変化することを意味していると思います。

業界では、こうした新種の車のことを「ソフトウェア定義車両(Software-Defined Vehicle, SDV)」と呼んでいます。

たとえば、米テスラは無線通信でソフトを更新するOTAで先進運転支援システムの機能を追加するなど、ソフト重視の車作りで先行しています。

テスラの車体自体は進化しなくても、ソフトを更新することで、実質的に新しい車になってしまうという意味です。

テスラはこうしたビジネスモデルで収益力を高め、1台当たりの純利益はトヨタの約5倍です。※テスラの時価総額が高いのは、投資家がこの利益率の部分を見ているからです。巷では、テスラの時価総額が高いのは単に新しい物好きが一時の興味で投資しているだけだと思い込んでいる人がかなりいるようです。でも、投資家というのは「数字」しか見ていませんから。

こうした動きは、何もテスラに特有のものではなく、車がEV化するということは、必然的にSDV化せざるを得ないのであり、その結果、自動車関連会社はソフトウェアに精通した人材が今後ますます必要になるわけです。

「ソフトウェア定義車両(Software-Defined Vehicle, SDV)」とは?

「ソフトウェア定義車両(Software-Defined Vehicle, SDV)」とは、自動車の機能や特徴が大部分または全てソフトウェアによって決定され、ハードウェアの枠組み内でソフトウェアが自由に機能を変えられるタイプの自動車を指します。

以下、SDVの特徴をいくつか挙げてみます。

  1. 柔軟性: ソフトウェア定義車両は、新しい技術や機能を追加する際に物理的な部品の交換や追加を必要としないため、時間とコストを大幅に削減することが可能です。
  2. アップデートが容易: SDVはオーバー・ザ・エア(OTA)という無線通信を使ったソフトウェア更新技術を利用し、リモートから車両の機能を更新することができます。
  3. パーソナライゼーション: ドライバーの好みに応じて車両の機能をカスタマイズすることが可能になります。例えば、インフォテインメントシステム、運転支援機能、さらには運転感覚までを個々のユーザーに合わせて調整できます。
  4. ビジネスモデルの変化: 車がSDV化することで、自動車メーカーは車両の販売だけでなく、ソフトウェアのアップグレードや新機能の提供といったサービスを提供することで収益を得ることができます。

テスラはSDVのパイオニアとも言え、そのソフトウェア主導のアプローチにより、新機能の追加や既存機能の改善をユーザーが自由に行えるビジネスモデルを確立しました。

多くの企業がこれに追随する形でSDVへの移行を進めています。

従来の自動車メーカーは、ハードウェア中心のアプローチからソフトウェア中心のアプローチへの転換を迫られています。

そのためには、ソフトウェア開発のスキルを持つ人材を大量に確保し、彼らの能力を最大限に活用する必要があります。

また、SDVは車両のセキュリティにも新たな課題をもたらします。

OTAによるソフトウェア更新は、ハッキングに対する新たなリスクを生む可能性があるため、セキュリティ対策も重要な課題となります。

いずれにしても、SDVは自動車産業に大きな変革をもたらし、その結果、自動車の機能、パフォーマンス、ユーザーエクスペリエンスは大きく向上する可能性があります。

車のSDV化と自動運転技術の実装はほぼ同じ意味を持つ

自動車のソフトウェア定義化(SDV)と自動運転技術の実装はほぼ同じ意味を持つと思います。

両者は共に自動車産業の未来を形成する核となる要素であり、次のような関係性を持ちます。

  1. ソフトウェアの役割: 自動運転技術は本質的にソフトウェアに依存しています。センサーからの入力を処理し、適切な行動を決定するためのアルゴリズムは、すべてソフトウェアによって実装されます。SDVはこのソフトウェア依存性をさらに高め、車両のほぼ全ての機能がソフトウェアによって制御されるようになります。
  2. OTA(Over The Air)更新: SDVの一つの大きな特性は、車両のソフトウェアが無線通信を通じてリモートで更新できることです。これは自動運転技術にとって重要な特性で、新しい機能の追加やバグ修正、性能改善などが可能となります。このようなOTA更新は、自動運転システムを常に最新の状態に保つことを可能にします。
  3. 車両のカスタマイゼーション: SDVは、ソフトウェアによって車両の機能を変更・追加することを可能にします。自動運転のためのソフトウェアも日々進化しますから、新しい機能や性能をユーザーの特定のニーズや状況に応じて調整することは、高度なSDVがあれば容易に実現できます。
  4. セキュリティ: SDVと自動運転は、両者とも新たなセキュリティリスクを生じさせます。車両のソフトウェアが遠隔でアクセス可能であるということは、ハッキングのリスクが増えることを意味します。強固なセキュリティ対策が自動運転技術とSDVの発展にとって必須となります。

このように、車のSDV化は、自動運転技術の実装と深くかかわることであり、自動車業界のソフト人材の重要性はますます高まる一方です。

車のSDV化は来るべきMaaS社会には必須

「Mobility as a Service」(MaaS)とは、異なるタイプの交通手段を一つのアクセス可能なプラットフォームに統合する概念です。

ユーザーは一つのアプリケーションやサービスを通じて移動の計画、予約、支払いが可能となります。

たとえば、横浜市緑区の自宅にいるAさんが、埼玉県の長瀞ながとろ町でライン下りを体験しようという場合、スマホのアプリで目的地である長瀞町を入力すると、横浜から長瀞までの経路が表示され、電車⇒⇒バス⇒⇒レンタカー⇒⇒レンタル自転車といった交通手段が提案されて、全行程に必要な料金が表示されます。

このように、予約から決済まですべて1つのアプリで完結することになり、利用者の利便性が高まります。

グーグルマップでも経路検索は現在でも可能ですが、電車やバスやレンタカーといった各交通手段毎の予約や決済をグーグルマップで完結することはできません。

社会のあらゆる移動手段を統合してたった1つのアプリで完結するのが、MaaSの理想形です。

こうしたモビリティ社会が一息に実現することはまずありえないでしょうが、部分的に現実化し、やがてバラバラだったパズルの駒が1つの絵としてまとまる時が来る可能性は否定できないでしょう。

このMaaS社会にとって、その1つの要素である自動車は、それがマイカーであれレンタカーであれカーシェアであれ、タクシーやハイヤーであれ、乗り合いバスや長距離バスであれ、路線バスであれ、それぞれの車がSDV化することで、重要な役割を演じるはずです。

MaaSのメインとなる担い手は「MaaSプロバイダー」と呼ばれる組織で、ここが、たとえばスマホアプリなどを一手に引き受け運営することになるでしょう。

そして、様々な交通手段の一つである自動車は、より自動運転のレベルが上がって、SDV化の度合いもより進化しなければなりません。

今はマイカーのSDVだけ考えていればいいのですが、ゆくゆくはMaaSという大きなシステムの一構成要素として、より高度なソフトウェアの開発が要求されるはずです。

自動車業界にとってソフト人材は社運を左右する存在になっていくことは間違いないところだと思います。

まとめ

最初に紹介した日経新聞の記事からわかることは、ホンダやトヨタをはじめとする自動車メーカーは、ソフトウェアの開発能力を高めるために大きな努力をしているという事実です。

車のEV化や自動運転の技術が進化する中、自動車の競争力はハードウェアだけでなく、ソフトウェアにも大きく依存することが明白だからです。

個人的にも、私は本当に大きな期待を寄せています。

Mr.乱視
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