このところ耳にする機会の多い走行税ですが、そもそもどんな仕組みの税金なのか、いつから導入されいくら取られるのか、4輪の自動車以外にバイクも対象になるのか、海外の事例はどうなのか・・・などなど疑問点は山ほどあります。
このページでは「これを読めば走行税が丸ごとわかる」ようにわかりやすく解説しています。
※このページの内容は2019年11月現在のものです。
そもそも走行税とは?

日本ではまだ未導入の走行税ですが、海外ではすでに何カ国かで導入または実証試験中の自動車関連税です。
車の走行距離に応じて課税する方式もあれば、車を走らせる期間に応じて課税する方式もあります。
多くは走行距離に応じて課税する方式です。
走行距離が多いほど課税額が多くなり、少ないほど課税額が少なくなります。
しかし、わたしたちが今現在支払っているガソリン税は、1リットル当たり約53.8円で、まさに走行距離が多い人ほど多くのガソリン税を支払い、走行距離が少ない人ほど支払いも少なくなっています。
では、なぜ改めて走行距離に応じて課税される新たな税金を導入する話が持ち上がっているのでしょう?
なぜ走行税の話が持ち上がったのか?

たとえば西暦2000年前後の頃までは道路を走るほぼすべての車がガソリンか軽油で走っていました。
その後はみなさんご存知の通りプリウスに代表されるハイブリッド車(HV/PHV)が普及し、さらにまだ少数ですが電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)も走り始めています。
さらに、若い人を中心に車を所有しないでカーシェアリング等を利用する人も増えています。
こうした動きを一言で表現すると、
「要するに、ガソリンの消費量が減り続けている」
これに尽きます。
日本エネルギー経済研究所の試算では、この流れが進み、2050年にガソリン車の新車がなくなると仮定した場合、日本のガソリン税収入は2015年比で8割の減少になると見込まれています。
金額で言うと、2015年のガソリン税(揮発油税)が約2兆5,000億円、2050年が約5,000億円です。
しかし、車は依然として2050年も道路を走り続けるので、道路の補修・管理のためのコストは掛かり続けます。
しかしガソリン税は入ってこない。
もちろん、自動車関連の税金は自動車取得税・自動車税・自動車重量税(2019年10月に廃止)などがありますが、これらは車を「所有」していることに対して課税される税金です。
車を「使用」することに対して、つまり、道路を走らせることに対する税金は、もしもすべての車が電気自動車になってガソリン税の徴収ができなくなれば0円になります。
そこで、すでに海外で導入あるいは社会実験中の走行税が脚光を浴びたわけです。
走行距離に応じて課税されることになれば、ガソリン車も電気自動車も平等に税金を払うことになります。
それによって安定的に道路整備に関わるお金が入ってくることになります。
二重課税、三重課税にならないのか?

すでにガソリンにかかる税金はガソリン税と消費税の二重課税ではないのかという議論がありますが、そこへ走行税も課税されるとなれば、三重の課税になるのではないかという批判・不信感は当然沸き起こります。
2019年10月1日以降に新たに新車を購入した場合の自動車重量税は廃止されますが、自動車税も同時期にすべての排気量で引き下げされます。
これは2020年以降に走行税を導入するための布石かもしれません。
本格的に走行税が導入されれば、ガソリン税も減額されるか全廃されるかする可能性はあると思います。
すでに導入されているアメリカのオレゴン州や実証試験中のカリフォルニア州では、燃料税(日本のガソリン税に相当)の控除制度も同時に採用しています。※つまり、走行税からすでに燃料税で支払った分を差し引くということ
いずれにしても、いつの時代も税を徴収する側が税を徴収される側に取る態度は決まっていて、それは、
「生かさず殺さず」
です。
今より良くなることは考えられないけれど、そうかといって、あまり毟り取ると車離れを助長してかえって税収は落ち込むので、完全に弱ってしまわない程度に匙加減をしておこう、といったところです。
ただし、政治力を持った特定の勢力によって税体系が捻じ曲げられることは歴史が証明しているので、一部の自動車ユーザーに過重な負担がのしかかることも有り得ることであり、油断はできません。
課税の仕組み:どうやって走行距離を確認するのか?

もしも日本でも走行税が導入された場合、走行距離はどうやって確認するのでしょう?
仮に車のオドメーター(走行距離計)を自己申告することになれば、誰もが予想するように、メーターの改ざん、不正が横行するのは目に見えています。
海外の事例では、オドメーターの自己申告も一部あるようですが、大勢としては、GPSを利用した距離の計測がほとんどです。
GPSによる距離の確認方法ではプライバシーが守られるのか?

上記のように、海外の事例ではGPSによる走行距離の計測が主流ですが、しかし、この方法だとドライバーの走行経路や各地点の通過時刻、さらには距離と時間の計算からスピード違反の有無も割り出せるし、一時停止標識のある場所できちんと停止したかもわかります。※現在大手代理店型保険会社4社が採用しているドライブレコーダー特約では、通信機能を持つドライブレコーダーがこうした情報をクラウドサーバーに日々蓄積しています
そうなるとドライバーのプライバシーは課税当局に丸裸になり、その結果、本来の使用目的である走行距離の割り出しに使用されるだけでなく、権力の側が「イザとなったら使える各納税者の弱み」を握ることにもなり、悪用されることもあるのでは・・・といった懸念や批判があります。
確かにその通りなのですが、ただし、わたしたちのプライバシーというのは、今現在がすでに上記のような状況に置かれているとわたしは認識しています。
社用車・営業車にドライブレコーダーが搭載されている場合、社員の行動は今現在すでに会社に把握されていますし、ドライブレコーダーの搭載そのものも裁判で違法性なしとの判断が下されています。(⇒社用車のドライブレコーダーはプライバシー侵害か)
また、保険会社や自動車会社がドライブレコーダーやカーナビのGPS情報を把握している事例もあります。
さらに、映画ではネットに接続されたあらゆる機器を駆使して犯罪者を探し当てるシーンはもはやありふれたシーンとなっていて、これなど、現実もすべてが映画通りとは言えないものの、「ほぼ映画通り」だと考えていいと思います。
街中の防犯カメラ、パソコンやスマホの通信用カメラ、道路上のNシステムなどなど、すでにわたしたちのプライバシーは丸裸あるいは半裸状態にあって、幸いなことに、まだそう頻繁には悪用されていないだけなのだとわたしは考えています。
いまさら走行距離計測のためのGPSでプライバシーがどうのと言っても、時すでに遅しではないかと。
なお、アメリカではGPSを使わずに距離を計測する装置(オドメーター以外の装置)も使われているようですが、どういう装置かは不明です。
税額:いくら課税されるのか?

これまでに報じられた新聞記事やコラムニストの記事に目を通しても、何キロ走行ごとに何円といった具体的課税額はまったくの未定のようです。
唯一具体的な金額に触れているのは、NHK NEWS WEBの「ビジネス特集 1000キロで5000円? 走行税の実態は」という記事です。
ニュージーランドのオークランドにある観光ツアーバスでは、最低レベルの税額として「1000キロ当たり68NZドル、日本円にして約5000円」という記述があります。
1kmに換算すると5円です。
単純に、これを日本の乗用車に適用してみます。
たとえばリッター20km走る乗用車の場合。
今現在のガソリン税では1リッターあたり53.8円課税されています。
すると、53.8円÷20km=2.69円となります。
- ニュージーランド:1kmあたり5円
- 日本:1kmあたり2.69円
仮にニュージーランドと同額が課税されるとなると現在の約2倍弱が課税されることになります。
これではいくらおとなしいわが国民も、全国で暴動を起こすでしょう。
いずれにしても、いくら課税されるかは現時点ではまったく不明ですし、また、他の自動車関連税の扱いとセットで評価すべき問題です。
もしも走行税が現在のガソリン税を上回る税額であったとしても、他の自動車関連税が大幅に減税あるいは撤廃されるのであれば、全体としては容認可能な範囲に収まるかもしれません。
走行税の税額は単独で評価すべきものではなく、あくまでも他とセットで判断すべきものだと思います。
いつから導入されるのか?

いずれにしても、日本で走行税が導入されるのはいつからなのでしょう?
あくまでも報道ベースですが、「2020年以降に導入を検討している」ということになっています。
「2020年以降」なので2020年かもしれませんし2025年かもしれません。
いずれにしても、自動車関連税はいくつもあるので、そうした税金とセットで考えるべき税金であり、ある程度議論する時間が必要だと思います。
対象車種:トラック・バス・タクシー・自家用車・バイクは?

走行税が日本に導入された場合、トラックやバス、あるいはタクシーなどの事業用の車だけに課税されると言うことはまず考えられません。
走行税は、そもそも電気自動車等が増えてガソリン税による税収が減少することに対する危機感から出てきた話なので、導入されるとしたら事業用はもちろん自家用も含めた全車種が対象になるはずです。
ただし、バイクに関しては距離計測装置のコスト、また車体がむき出しであることによるそうした装置の盗難などのリスク、さらに交通量全体に占めるバイク台数などを考慮すると、当面は見送られるのではないかと思います。
あるいは、導入された走行税が予想以上に過重な税負担を強いる税であった場合に、車からバイクへの大量のシフトが発生し、その結果、バイクにも走行税がかかる事態も有り得る話でしょう。
いずれにしても、マスコミには走行税が本決まりになってから騒ぐのではなく、検討段階から頻繁に取り上げ議論を深めていただきたいと思います。
下記の記事も参考になさってください。
ご覧いただきありがとうございました。