トヨタ、モビリティ委員会で主張:「敵は炭素であり内燃機関ではない」

<当サイトはアフィリエイトプログラムを利用しています>



トヨタ、モビリティ委員会で主張:「敵は炭素であり内燃機関ではない」

トヨタ プリウス(2023年1月~)<Wikipedia

Mr.乱視
この記事は当サイトの管理人ミスター乱視が執筆しています。引用元・参照元を明示した信頼性の高い記事をお届けします。

トヨタ社長「このままでは日本は世界から取り残されかねない」

JAMA BLOGから抜粋)

2023年2月8日、経団連の第2回「モビリティ委員会」が開催されました。その席でトヨタ自動車の豊田章男社長が次のような発言をしています。

 

日本は世界トップレベルの省エネ国

  • 上記の図にあるように、グローバルで比較しても、日本は同じ価値を産み出すのに必要なエネルギーが主要国で最も低いという実績がある。
  • 各企業の優れた省エネ技術がこれを支えている。
  • (話変わって)日本で1年間に販売している480万台の新車をすべて電気自動車(EV/BEV)におきかえようとすると、その電力をまかなうために毎年原子力発電所を1基新設することが必要となる。
  • 欧米やアジアはすでに官民一体となって、自国の未来の絵姿を描き、具体的な産業政策に繋げている。
  • このままでは日本は世界から取り残されかねない、日本をなんとかしたい、そんな危機感を強くしている。

 

トヨタ幹部が特別講演:EVよりハイブリッドが優れている理由

トヨタ社長につづき、トヨタ・リサーチ・インスティチュート最高経営責任者ギル・プラット氏が次のような講演を行いました。

 

プラット氏の話のメインテーマは「世界の自動車全てを電気自動車(EV/BEV)とするのでなく、プラグインハイブリッド(PHV/PHEV)、ハイブリッド(HV/HEV)も合わせて置き換えるべき」というものです。

 

具体的内容は下記の通り。

  • リチウムは今後10〜20年で30〜50%不足が見込まれる。電池工場は2〜3年で建設できるが、鉱山開発には10〜15年が必要なため、電池の需要に供給が追い付かなくなる。
  • BEV1台分のリチウムで、PHEV6台あるいはHEV90台を製造可能。HEV90台の方が自動車全体のCO2排出量は少なくなる。
  • BEV用電池工場は、HEV用の10倍の電気を消費し、半分以下の電池量しか製造できない。
  • 上記の内容をダボス(世界経済フォーラム)で説明したが、世界のリーダーもメディアも、同じ見方をし始めている
  • 新車ゼロエミッション車(ZEV)目標値などではなく、足下での具体的なCO2削減目標が必要。⇒⇒そのためにはハイブリッド車、プラグインハイブリッド車が有効。

 

私の感想

(1)理にかなっている

第2回「モビリティ委員会」でのトヨタの主張は、提示された資料が正しいという前提で言えば、きわめて「理」のある考え方だと思います。

 

全ての車をEV化の方向に押しすすめた場合、バッテリーの資源が不足すること、電力供給が追い付かないこと、そもそもEVよりHEVやPHEVの方が製造から廃棄までのトータルで考えた場合の環境負荷が小さいこと、これが発言の骨子だと思います。

 

ヨーロッパが中心になって推し進めるEV化への「科学的」な反論として、理にかなっていると思います。

 

(2)だが産業は理にかなった方向に進むとは限らない

トヨタの主張は理にかなっていると思います。ですが、産業界が常に科学的に正しいと思われる方向に進むとは限らないと思います。

 

たとえば、EVに対するHEVの優位性というトヨタの主張には「理」があるかもしれませんが、トヨタ自身が世界の自動車メーカーの先頭に立って販売の中心に据えているSUVの群れはどうなのでしょう?

 

地球資源の行く末を案じ、エコで持続可能な社会を目指すのであれば、鉄をたくさん使い、大きなタイヤを履き、燃費性能が劣るSUVを世に送り出し続けることのどこに「理」があるのでしょう。

 

この際、「理」は関係なく、今は流行で売れるから、だから製造し販売しているのではないでしょうか。

 

それが悪いと言っているのではありません。企業として、産業として、利潤を追求する至上命令のもとで行っている正当な行為であり、トヨタは現状でその戦いの勝者でもあります。

 

(3)「理」は常に方便であり、実情は一貫して<仁義なき戦い>である

EU方面が主導するEV化がハイブリッド攻勢を押さえつけるための「方便」にすぎないとすれば、トヨタが主張するHEVの優位性もまた「方便」にすぎないと思います。

 

互いにうわべではもっともな理屈をつけて主張し合っていますが、実際に行われているのは<仁義なき戦い>です。戦いである以上、負けるわけにはいかないと思います。

 

(4)「全方位」とは言葉だけ

もしもトヨタや日本のメーカーが、一方でハイブリッド車の優位性を主張してEU勢をけん制しつつ、その一方で、着々とEV車の開発・製造・販売を実践し、欧州・中国・韓国・北米のメーカーに何ら遜色ない販売実績を上げているのであれば、それこそいずれは<仁義なき戦い>を制する助走段階として、大いに頼もしく感じられるところです。

 

ですが、現状はそうなっているでしょうか?

 

自動車工業会(自工会)は、「EV一辺倒がカーボンニュートラルへの唯一の解決策ではない」とする方針を掲げています。これをEUその他へのけん制として発信する一方で、しっかりEV車の製造・販売に取り組んでいるのならともかく、この方針を、先送りするための根拠にしているようにさえ映ります。

 

燃料電池車にしても水素エンジン車にしても、これらはそもそもほとんど差がついていないので、現状ではあまり心配材料にならないと思います。

 

また、欧州勢をはじめとした世界の自動車メーカーが、「やっぱりハイブリッドの方がいいかも」と方針転換してきたら、それこそ我が意を得たりであり、大歓迎でしょう。すでに日本はハイブリッド王国です。

 

けれども、EV車が主流になってきたら?生産される車のすべてがEV車になることはないにしても、販売台数の20%、30%、40%とひたひたとEV車の割合が増加していったら?

 

世界がそういう情勢になってから日本のメーカーは本腰を入れるのでしょうか。自工会が「EV一辺倒」がダメだというとき、それはEVを全否定する言葉ではないはずです。けれども、実態は、EVを先送りすることの言い訳としてこの声明を位置づけ、これにもたれかかっているとしか言いようがない。

 

言葉とは裏腹に、日本の自動車メーカーは「全方位」とはなっていません。後からいつでも追い付けると考えているのか、ことEVに関しては他国のメーカーを追走する意思が弱い。

 

(5)「技術」ではなく「産業」としてとらえるべき問題

「日本には技術力があって高性能なEV車などいつでも作れる」という言説をよく耳にします。ですが、これは「技術」ではなく「産業」の問題として考えるべきことです。

 

たとえ高性能なEV車を作れても、それが<利益>を生む車として大量生産できるかどうかは別問題です。

 

2020年にホンダeが発売された際、開発担当の一人は「どうせ開発費は回収できない」と発言しています。(日経クロステック

 

「ホンダeは日本での販売でも1台当たり80万円の赤字とされ、欧州での販売はさらに1台当たりの赤字幅は膨らむとみられる。」という分析もありました。(エコノミストonline

 

2022年にトヨタbZ4xが発表された際、多くのメディアが「bZ4xの車台(プラットフォーム)はEV車専用のもの」と紹介していました。しかし、実際は、ガソリン車やハイブリッド車等の既存モデルとの共通部分を残したプラットフォームでした。(朝日新聞)(モーターファン

 

2023年2月13日、近く新しい体制となる新社長会見において、トヨタは2026年を目標にEV車専用のプラットフォームを開発し、BEV最適のクルマづくりをすると発表しています。これは、要するに、利益率向上のためです。テスラのような車づくりをしないと利益を生むEV車をつくれないと言っているのです。(webCG

 

そして、ドイツ・フォルクスワーゲンは2024年に2万ユーロ台前半(300万円程度)で ID.2(ID.Golf?)を投入する予定です。(EVSmart

 

すでに2023年1月31日に日本上陸を果たした中国のBYD・ATTO3アットスリーは、補助金を含めると300万円前後の車です。(⇒⇒ATTO3はどんなクルマ?

 

高性能なEV車は技術があれば作れます。けれども、「利益率の高いEV車」は、部品調達から工場ラインにいたるまで<EV産業>と言うべき一つの産業構造を構築しないと実現しないはずのものです。

 

「技術があるから大丈夫」と言い続け、半導体も、液晶テレビも、太陽光発電も、風力発電も、全て負けを重ねてきています。

 

(5)追い付けないほどの差を付けられることは避けるべき

たとえバッテリーの原料不足や電力供給の不足で、EV車の普及が絵に描いたような右肩上がりにならなかったとしても、EV車が自動車のかなりの割合を占めるであろう近未来が予測される現状では、まずは大きな差をつけられない位置につけておかないと、自動車産業として危ういのではないか。

(※)「EV車が自動車のかなりの割合を占めるであろう近未来が予測される」という私の認識の根拠は、自動車メーカーとその関連会社の資本の動きです。充電池をはじめEV完成車に関わる投資額は莫大であり、増え続けています。「ゼニの動き」を見て言っている言葉です。

 

燃料電池車も水素エンジン車も、そもそも差がついていないのだから、何も心配はない。

 

「やっぱりハイブリッドがいい」と世界が言い出したら、それは大歓迎。現状のままで日本は安泰です。

 

けれども、EV車のシェアがこのまま広がり続けた時(現状、乗用車生産の10%がEV車)、その時になって日本の自動車メーカーは世界に追い付けるのでしょうか。相当な差を付けられてから、あわててEV産業を構築し、<仁義なき戦い>を制するだけの利益を生む工業製品を世に送り出せるのでしょうか。

 

以上が私の感想です。

 

(※)もっとも、トヨタの社長さんが以前から主張しているように、この問題は自動車メーカーだけでできる話ではなく、官民一体で取り組むべき課題だと思いますが。

 

ご覧いただきありがとうございました。

※プリウスかっこいいですね。欲しい~。走りもいいようです。Aピラーの角度はランボルギーニに近いそうです。狂ってますね。こういうところ、好きです。(⇒⇒日刊現代Digital:新型プリウス、スーパーカーと化す

【2023年6月13日追記】トヨタ27年にも全固体電池EV投入「充電10分1200キロ」

項目内容
トヨタの全固体電池充電時間:10分以下、航続距離:約1200キロ(現行EVの2.4倍)
全固体電池の特徴電解質が固体になり、充電時間が短く航続距離を伸ばせる
実用化の難点電解質と電極が離れてしまい使えなくなる
トヨタの全固体電池開発状況2027年~2028年に実用化予定。将来的には航続距離を約1500キロまで伸ばす計画
現行EVの性能(トヨタのbZ4X)充電時間:約30分、航続距離:約600キロ
全固体電池製造コスト現行のリチウムイオン電池に比べて4~25倍高い
全固体電池市場規模予測2040年には約3兆8605億円
日産自動車の全固体電池開発2028年までに全固体電池搭載EVを市場投入予定
BMWの全固体電池開発2025年までに全固体電池搭載実証車両を公開、2030年までに量産予定
トヨタのEV販売目標2026年までに年間150万台、2030年までに350万台
トヨタの液化リチウムイオン電池開発2026年に次世代品を投入予定。充電時間:20分で約1000キロ走行可能