【記事丸わかり】
⇒⇒物損事故と慰謝料請求 |
物損事故における「慰謝料」の扱いについて解説します。
原則として物損事故では慰謝料は支払われません。
ただし過去の判例では例外的に慰謝料支払いを命じているものもあります。
このページでは物損事故の慰謝料について詳しく解説しています。
しばらくお付き合いいただけると幸いです。
原則、物損事故に慰謝料はなし
「慰謝料」の「慰謝」とは、本来は身体的なものに対してであれ物質的なものに対してであれ、精神的にダメージを受けた人を慰めることを意味しています。
したがって、交通事故において、人身事故であろうと物損事故であろうと、精神的ダメージを受けた被害者に対して慰謝料が支払われてもなんの不都合もありません。
ただし、これまでの慣行として、交通事故において慰謝料が支払われる場面といえば、ほぼすべてのケースが人身事故に限定されています。
保険会社が物損事故で慰謝料を支払うことはまずありません。
支払うケースがあるとすれば、物損事故の被害者が裁判に訴えその主張が認められたケースに限られます。
黙っていても保険会社が慰謝料を支払うという状況にはありません。
物損事故でも慰謝料が認められた判例
数は少ないものの、交通事故における物損事故で慰謝料の支払いが命じられた判決が存在します。
こうしたいくつかの判例で共通しているのは、車に対する損害には慰謝料は認められない、という点です。
慰謝料が認められた判例は、ペット・芸術作品・住居・墓石などが被害を受けたケースです。
相手の車が飛び込んできて上記のモノに損害を受けた場合、その持ち主が被る精神的ダメージに対して慰謝料の支払いが命じられています。※ペットは法的にはモノとして扱われます
物損事故で慰謝料支払いの判決が出た裁判 | ||
東京高裁平成16年2月26日 | ペットの犬が酒気帯び・居眠り運転の車にはねられ死亡 | 慰謝料5万円 |
名古屋高裁平成20年9月30日 | ペットの犬が車にはねられ後肢麻痺の後遺障害を負う | 慰謝料※金額は不明 |
名古屋地裁平成22年3月5日 | 盲導犬がトラックにはねられ死亡 | 慰謝料※金額は数百万単位 |
大阪地裁平成18年3月22日 | ペットが車にはねられ死亡 | 慰謝料10万円 |
大阪地裁平成15年7月30日 | 車が家の玄関に突っ込み破損。補修期間生活に不便が生じる | 慰謝料20万円 |
東京地裁平成15年7月28日 | 車が家に飛び込み保管していた陶芸作品が破損 | 慰謝料100万円 |
大阪地裁平成12年9月6日 | 車が墓石を破壊 | 慰謝料10万円 |
※上記判決では地方裁判所や高等裁判所のものばかりで最高裁判所の判例は見当たりませんでした。
判例があるからといって保険会社が黙っていても支払うわけではない
上記のように物損事故でも慰謝料の支払いが認められた判決は存在します。
ただしいずれも下級審における判決です。※高等裁判所も最高裁判所から見れば下級審です
それもあり、保険会社は、やはりと言うべきか、物損事故に対しては慰謝料の支払いなし、という立場を崩していません。
この点では全保険会社が横一線です。
したがって、「物損事故にも慰謝料」というケースが過去にあったとしても、それはあくまでも裁判で勝ち取った事例であり、通常の事故処理において、保険会社が当たり前のように慰謝料を支払う事はありません。
と言うか、物損事故では慰謝料は支払いません。
裁判で争った場合に支払われることもある、という認識にとどめておくべきだと思います。
物損事故の慰謝料に「相場」はなく「計算」もできない
ここまでのご説明で明らかなように、物損事故の慰謝料は裁判で争った場合に出ることもあるという程度のものなので、慰謝料の相場などは存在しません。
もしも事故が原因で通院治療や入院治療をすることになったら、それは物損事故ではなく人身事故として警察に届け直す必要があります。
人身事故として事故処理することになれば、保険会社は身体的被害に応じて「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」などを支払います。
しかしその事故があくまでも物損事故にとどまる限り、保険会社は慰謝料は支払いません。
自動車の損害に慰謝料が支払われる事例はほぼゼロ
いわゆるもらい事故(被害事故)で車が全損となった場合、加害者側から受け取れる賠償額は、事故にあった車の事故発生時点での市場取引価格、つまり時価額が上限です。
時価額を超えて加害者側から支払われるものがあるとすれば、買替諸費用、代車費用などです。※しかもこれらが必ず支払われるとは限りません
まず絶対にありえないのが慰謝料です。
全損の被害にあった車が所有者にとっていかに思い入れの強い車であっても、また希少性のある車であっても、「慰謝料」の名目で金銭が支払われる事例はまず存在しません※過去に一例もなかったかどうかまでは断言できませんが
ペットや芸術作品や墓石などにはケースによってあるかもしれないけれど、車に対する慰謝料はまずあり得ないと認識しておくべきだと思います。
ご覧いただきありがとうございました。