摩耗は避けられない
車やバイクのエンジンにはピストンとシリンダーがあって、ピストンはシリンダーの筒の中を往復運動します。
その際、ピストンには3つのリングがはめられていて、燃焼ガスがクランクケースに漏れる(ブローバイガス)のを防いだり、反対に、クランクケースからシリンダー内にエンジンオイルが侵入(オイル上がり)してくるのを防いだりしています。
つまり、ピストンに巻き付けてあるピストンリングは、常時シリンダー壁と摩擦を繰り返していますから、走行距離が増えるにしたがって摩耗することは避けられません。
摩耗を防止するためにエンジンオイルが薄くシリンダー壁に張られるような構造になっていますが(これは3本あるピストンリングの内のオイルリングの役目でもある)、それでも、完全に摩耗を防ぐことは不可能です。
そのため、ピストンリングは摩耗します。しかし、摩耗したからといって、即座に、シリンダー壁との間に隙間が生じることはありません。すり減った分だけ、またその隙間を埋めるようにピストンリングはシリンダー壁に張り付くような仕組みになっています。でも、どうやって?
ピストンリングはシームレスではなく切れ目が入っている
ピストンをエンジンから取り外して、そのピストンから3本のピストンリングを外してみると、ピストンリングは完全な円形の輪っかではなく、一箇所切れ目が入っています。3本ともすべて切れ目が入っています。
この切れ目のことを合口隙間(あいくちすきま)と呼びますが、この隙間は、ピストンリング単体で床に置いた時には数ミリ単位の開き具合です。
けれども、そんな風に合口隙間が開いているピストンリングを、いざピストンに巻き付け、巻き付けた状態でシリンダーの筒にはめ込むと、今度はその合口隙間がほぼゼロに近いまでになり、完全な円形の輪っかに近い状態になります。
そこで、摩耗の問題に戻ります。
ピストンがシリンダー内を往復運動すれば、当然、ピストンリングは摩耗します。しかし、摩耗したからと言って、即座に隙間が生じることはありません。それは、ピストンリング自体がもともと外側に張りだそう張りだそうという力を持っているからです。
ピストンリングのシリンダー壁と接する面が摩耗したら、摩耗した分だけピストンリングはシリンダー壁に密着しようと膨らみます。その結果、摩耗する前と同じようにピストンリングとシリンダー壁はぴったり密着した状態を保ちます。
ただし、この場合、ピストンリングの合口隙間は次第に広がっていきます。当初はほぼ0に近かった隙間が、0.03ミリ、0.04ミリ、0.05ミリ・・・というように広がっていきます。
合口隙間が広がれば、その広がった部分は燃焼ガスやエンジンオイルの抜け道となるので、エンジンにとっていいことではありません。
ある程度の合口隙間の広がりは許容範囲ではあるものの、それも程度問題で、あまりに広がり過ぎたらピストンリングの交換なども視野に入れなければなりません。
とは言え、上記のご説明のように、ピストンリングとは、そもそもある程度の摩耗を想定したうえで使用されているパーツです。
ですから、マフラーから明らかに白煙が出ることが多くなった、加速性能が落ちてきた、エンジンオイルの減り方が早くなってきた・・・といった諸症状があれば対処しなければなりませんが、それほどでもないのであれば、特に問題ないと思います。
定期的なオイル交換が最良の対処法
いずれにしても、ピストンリングの摩耗対策としてベストな方法は、定期的なオイル交換です。
エンジンオイルに金属片などの不純物をできるだけ含ませない状態でエンジンが回っている限り、ピストンリングがそうそう不具合を起こす心配はありません。
反対に、定期的なエンジンオイル交換を怠っていたり、激しいスポーツ走行を繰り返しているにもかかわらず早めのオイル交換をしないでいたりすると、ピストンリングは固着を起こしたりして、トラブルを招きます。
ピストンリングの固着とは、リングがピストンに張り付いたまま動かなくなることをいい、これはリングの摩耗よりもっとタチが悪いトラブルです。
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